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「検査室から見えるこの頃の食品の裏側、向こう側」農民連食品分析センター  八田 純人氏

萌の会 記念講演会報告  6月29日 ワークピア横浜

・・・ナチュラルコープの生産者業者協力会・萌の会の第23期総会にて、農民連食品分析センターの八田純人さんをお迎えし、分析センターの業務から見える、残留農薬や農業にまつわる問題についてお話を伺いました・・・

 

萌の会 記念講演会報告  2024年6月29日 ワークピア横浜

 中国産冷凍ほうれん草事件

 2000年の初め頃、中国産の冷凍ほうれん草から基準値を超える農薬が検出された事件がありました。

 1999年、農民団体が日本向け野菜を作っている中国山東省を視察した時のこと。明日収穫されてすぐに冷凍され日本へ届くという畑を訪れた時、目の前で農薬をかけているのを見て「これは危ない」と驚いたといいます。

 帰国後うちの分析センターへ、中国産冷凍農産物の残留農薬を調べて欲しいと依頼がありました。分析の結果、有機リン系殺虫剤「クロルピリホス」が基準値を超えて出ました。クロルピリホスは神経毒性が強く、シロアリ駆除剤などに使われ葉物野菜には使用されません。

 厚生労働省へデータを持って行きましたが、冷凍ほうれん草は野菜ではなく、加工食品なので(当時の法律では基準値がなく)判断できないといわれました。そこでさらに検査を重ねて、マスコミと一緒に2年半かけてメディアに情報を流すことで厚生労働省もやっと動き、食品衛生法の改正につながりました。

日本の食品衛生法

 日本は世界と比較すれば食品衛生に関してはよくやっている方ですが、万全の体制とは言えません。法律作りで足りない面があります。

 ゲノム編集食品は、遺伝子を切っただけでは届け出しなくていいし表示もいりません。紅麹サプリメントで話題になった機能性表示食品も、お金になる食品として生まれました。

日本の食料自給率

 日本の穀物自給率は28%前後で推移し、主食用穀物自給率は60%です。5月に改正された「食料・農業・農村基本法」はお金で解決する姿勢が見え、食料自給率の向上を明確に掲げていません。

 日本は農地が足りないから本気で食料を作る取り組みをしなければなりませんが、そうはなっていないのです。

輸入食品の問題点

 海外から農産物を輸入する場合、長い距離を時間をかけて運ぶため、多くは農薬の力を借りています。

 輸入柑橘類を検査すると、ポストハーベストといわれる収穫が終わった後にかけられる殺菌剤が検出されます。

 最近は国産じゃがいもの供給が下がったということで、アメリカから生のじゃがいもが輸入されポテトチップスなどの原料に使われていますが、アメリカ産はポストハーベストが認められています。

 バナナは以前は有機リン系農薬の空中散布が行われていましたが、最近はバナナのつぼみにネオニコ農薬を注入。農薬がつぼみから全体にいきわたる方法がとられ始めています。このように国産で作っていれば食べなくていい農薬が輸入の影響で日本に入ってくるのです。

ネオニコチノイド系農薬

 宍道湖の魚があるときから減少したのはネオニコ農薬の使用量が増えたからとの研究がありますが、その影響か釣りをする人から河川の水の調査依頼が多く来ます。

 水道水の検査でもネオニコ農薬は通年検出され、特に5月から7月は田植えや野菜の作付けの影響を受けて多く出ます。

 2023年には尿中のネオニコ農薬の検査をしましたが、95%の検体からネオニコ農薬を検出しました。

 ネオニコ農薬は夢の農薬といわれ一気に普及しましたが、EUではハチ類の生態系に影響があるということで2018年に使用禁止になりました。日本では規制を緩和しながら使用を認めています。

 学者からは、人の胎児の神経発達に悪影響があるのではないかと心配する声があります。ネオニコ農薬は浸透性があり、洗っても皮をむいても取り除けないので厄介な農薬です。

除草剤・グリホサート

 日本は輸入小麦に依存していますが、アメリカなどではプレハーベストといい、収穫1か月前に除草剤のグリホサートを直接小麦にかけることが行われています。これにより収穫しやすいなどのメリットがあるといいます。よって輸入小麦を使ったベビーフードや子供用のお菓子からもグリホサートが検出されます。国産小麦使用のものからは検出されません。

本当の食の豊かさとは

 現在私たちは食の豊かさを実感していますが、本当の食の豊かさとは何かと考える場面が現場ではあります。

 ネオニコ農薬や、グリホサート、ゲノム編集を使えば手軽に目的を達成できます。しかし私は、「こういうものに頼ることによって何かなくしているものがあるのではないかということをしみじみ感じます

 生協が掲げる地域に密着した農業の体制で、食べ物イコールお金ではなく命のために食べ物を作るという循環が大事だと思います。

農民連食品分析センター

 1996年、消費者と農民の募金により設立された世界的にも珍しい分析センターです。募金による設立のため、企業や行政の影響を受けることなく、独立した立場で活動を行い、農業と生活に密着した視点から情報提供を行っています。