ネオニコフリー学習会報告第2回 哺乳類の脳神経への影響と毒性評価
1993年に発売されたネオニコチノイド系農薬は「昆虫によく効き、ヒトには安全」「少量で効き、環境にやさしい」などの数々の「神話」をもって発売されました。
しかし発売から20年以上経過し、ごく少量で哺乳類の神経系・免疫系・さらに次世代への毒性があることが明らかになってきました。
今回、生協ネットワーク21の主催により各分野の専門家をお招きし、3回にわたって学習会を開催しています。
第2回はネオニコチノイド系農薬の毒性実験を行っている 神戸大学 教授 星 信彦 さん のお話を伺いました。
「前提として、農薬は医薬品とは異なり「毒」であるため、発売前にヒトでの臨床試験はできない。また現在、国が求める農薬の毒性試験では見落とされる毒性がある」とネオニコチノイド系農薬(以下「ネオニコ」)の毒性実験に長年携わってきた星氏は警鐘を鳴らします。
見落とされる毒性
◇哺乳類への神経毒性
ネオニコは昆虫の神経系をかく乱する農薬ですが、ヒトの神経系には作用しないと言われてきました。
しかし星氏の実験では、毒性がないとされる量「無毒性量(NOAEL)」を一回のみ投与したマウスで不安様行動などの異常行動、異常啼鳴が確認されました。「マウスは痛みや恐怖などの極度のストレスにさらされない限り鳴かない。試験した14個体全てで異常啼鳴が確認されたんです」(星氏)
◇発達期の神経への毒性
マウスの発達期の脳神経にネオニコが及ぼす影響を調べた実験では、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質のバランスを変化させ、多動や精神疾患、学習障害を発症させる可能性が示唆されました。さらにメスよりもオスの方が影響を受けやすい性差が確認されました。
◇免疫系への毒性
「アレルギーの鍵は〝腸〟にあり」といわれるように、「腸」は全身免疫の本部となっています。
しかし日常的にネオニコを摂取することで、免疫細胞の減少、腸内細菌叢の多様性の低下など免疫機能をかく乱させることが星氏の実験で明らかになりました。
◇母子間移行と次世代への影響
ネオニコは体内に取り込まれると分解され、代謝物が生成されます。
驚くことに、哺乳類に対する毒性はネオニコ自体より、その代謝物の方が圧倒的に高いことが分かってきました。
そこでマウスの母乳を通したネオニコの母子間移行を調べた結果、ネオニコとその代謝物が極めて迅速に母乳へと移行することが明らかになりました。「全国のお母さんにこの事実を早く知ってほしいし、政府が周知するべき内容だ」(星氏)
また、ネオニコによる次世代への影響を調べた実験では、胎児期にネオニコを投与されたマウスの子世代で生殖細胞の減少や卵巣の委縮化が認められ、孫世代では抗酸化酵素の減少、ホルモンバランスの変化、育児放棄などの異常が確認され、ネオニコによる継世代影響が明らかになりました。
無毒性量(NOAEL)の早急な見直しが必要
前記の実験では、無毒性量またはそれ以下の投与で数々の毒性が明らかになりました。なぜでしょうか。背景には、
①経済協力開発機構(OECD)ガイドラインに基づいて毒性試験が行われていること
②感受性の違いが考慮されていないこと
③農薬企業の試験結果がほとんど全て未公開であること
などが挙げられます。
国はOECDガイドラインに沿った毒性試験結果を基に農薬の無毒性量を決めています。しかし現行のガイドラインでは「発達神経毒性試験」は任意です。
また近年、科学技術の進歩で害が明らかになってきた「環境ホルモン作用」「エピジェネティクス影響」「複数の農薬による複合毒性」などは試験項目にありません。
『現在〝安全〟とされている量は「急性的な中毒」や「細胞肥大(ガン化)」などが起こらないというだけです』(星氏)
また国は農作物の残留農薬基準を決める上で、一日摂取許容量(ADI)を定めています。ADIは無毒性量に、実験動物とヒトの感受性の違いを個体差10、種差10と考慮して安全係数100(10×10)で割り、算出しています。
しかし「この安全係数に科学的な根拠は全くない」と星氏は断言します。
実際に、同じ齧歯類のハムスターとモルモット間でも農薬に対する感受性は一万倍違います。
さらに無毒性量の根拠となる農薬メーカーの毒性試験結果は知的財産という理由でほとんどが未公開です。星氏は「現状は国が企業の方を向いている。国民一人ひとりが声をあげていかないと変わらない」と訴えました。
質疑応答(抜粋)
質問「ネオニコの害を避けるにはどんな取り組みをしたらよいですか。」
回答(星氏)「できるだけ無農薬・有機野菜を選ぶこと。それから市民が声をあげていくこと。例えば、市議などにかけあい学校給食を有機食材に替える取り組みは、発達期の子どもを守る上でも有効です」
参考:『本当は危ない国産食品「食」が「病」を引き起こす』(奥野修司)