ネオニコフリー学習会報告第3回 ネオニコフリーの栽培技術 ~みどり戦略の実現に向けて~
生協ネットワーク21の主催により3回にわたって学習会を開催しました。
最終回となる第3回目は、ネオニコチノイド系農薬(以下「ネオニコ」)を使わずに有機栽培を実践している日本有機農業普及協会 理事長 小祝政明 氏 をお招きして、農薬を使用しない栽培技術の理論と実践を学びました。
「植物には自身で身を守るメカニズムがあるのです。」そうにこやかにお話されたのはBLOF理論(以下「ブロフ(理論)」)提唱者である小祝さん。
農林水産省は2021年、農業の生産力向上と持続性の両立をめざす「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」を策定しました。
みどり戦略は2040年までにネオニコを含む従来の殺虫剤の使用をやめること、2050年までに有機農業の面積を100万haに拡大することなどを目標に掲げています。
小祝さんが提唱するブロフ理論は農薬・化学肥料を使用せず収量や食味向上が期待できる有機農法として今注目されています。
◆ブロフ理論とは
BLOF(Biological Farming)=生態調和型農業と呼ばれる栽培技術です。その特長は、
①正確な土壌分析により適切な有機肥料を計画し、土壌中のミネラルバランスを整え、光合成の活性を最大化すること
②根からアミノ酸や有機態栄養素を吸収させ、炭水化物合成の効率化を図ること
③土壌の団粒化を図ること
の3つです。
◆無農薬で多収量・高食味を実現可能に
「作物を分析すると、有機野菜でも栄養価が低い場合があります。」(小祝さん)
有機農法であっても土壌分析をせずに施肥をすると、土壌中のミネラルバランスが崩れ、収量や食味、栄養価が低下します。裏を返せば、正確な分析に基づく施肥を行うことで、無農薬で収量・食味・栄養価の向上が可能になります。「ブロフ理論に基づく有機農法だからこそ可能なのです。」(小祝さん)
◆ブロフ理論実践~稲の例~
JA東とくしまではブロフ導入後、無農薬・多収量・高食味米の栽培を実現しています。その要となっているのが稲の「根」です。
学習会の中で、ブロフと特別栽培(農薬・化学肥料を慣行栽培の5割以下使用)の稲を比較した動画を鑑賞しました。その大きな違いは稲わらの硬さと、根の張り方。特別栽培の稲は水田から簡単に引き抜け、稲わらも容易に折れるのに対し、ブロフの稲はなかなか引き抜けない上に、簡単に折れません。稲の害虫であるウンカは稲自体が固いと稲の汁を吸うことができないので、殺虫剤を使う必要がなく、益虫も増えていきます。
「健全な稲を育てるには根作りが大切。それには土壌中のミネラル成分が鍵となります。」(小祝さん)
◆キャベツの例
例えば害虫被害で有名なキャベツもブロフでは虫がつきません。なぜでしょうか。
モンシロチョウは作物特有の「匂い」を感知して卵を産み付けます。農薬や化学肥料を使用した作物は細胞の壁(セルロース)が脆く、作物特有の「匂い」が細胞内部から漏れ出ているのです。
一方、ブロフのキャベツは、セルロースが厚く、さらに作物表層にワックス層があるため「匂い」が漏れ出ず、害虫被害に遭わないのです。
◆鍵は炭水化物の生成
ではどうしたらセルロースやワックス層ができるのでしょうか。
植物は光合成により光エネルギーを最終的に炭水化物にして蓄えます。セルロースやワックス層は分子レベルでみるとC(炭素)、H(水素)、O(酸素)で構成される『炭水化物』系です。
つまり、光合成が最大限活性化し効率よく炭水化物が生成されると、厚いセルロースやワックス層がつくられるのです。
光合成による炭水化物生成の回路には多様なミネラル分が使われるため、適切な施肥で土壌中のミネラルバランスを整える必要性があるのです。
◆根からアミノ酸や有機態栄養素を直接吸収
ブロフではミネラルの他に、アミノ酸も施肥します。
以前は、植物が根から吸収できるのはミネラルや硝酸態窒素などの無機物だけというのが定説でした。しかし最近の研究で、植物はアミノ酸や酢酸などの有機態栄養素も根から吸収できることが明らかになりました。さらにそれは、化学肥料の成分である硝酸態窒素などの無機物を吸収するより、効率よく炭水化物の生成を促進し、作物の健全な生育を助けることが分かってきました。
◆根からの吸収を促進させる土壌の団粒構造
根からミネラル分やアミノ酸、酢酸などの有機態栄養素を効率よく吸収させるために、ブロフでは太陽の熱や微生物の力を利用して土壌を団粒化(フカフカに)させています。
◆質疑応答
▽質問:JAなどでは農薬などの販売が大きな収入源となっているため、農薬や化学肥料を使用しない農法はうまく広まらないのでは。
▽回答(小祝):確かにそういった側面はある。しかしJA東とくしまのように農業資材の販売よりも、高食味で多収量の米を適正価格で販売することを選択し、取り組んでいるところもある。
▽質問:家庭菜園において、酢を薄めて撒くことは有効か。
▽回答(小祝):有効。撒く酢はアルコールから造られたものが適している。